- ”備前の水甕、水が腐らぬ”ただし、蓋をして暗所に置くことを要す。
- 汲み置き水の味を柔らかくする。茶の湯に使う水は前の晩に備前焼水甕に汲み入れて暗所に置く習わしになっている。豊臣秀吉は備前焼の茶器を愛好した。
- 名刀の産地”備前長船”の刀鍛冶は、備前焼の甕に汲み置いた水が焼き入れ水に適しているとの経験則を持っていた。
- 備前焼花瓶は生け花を長持ちさせる。他種の花瓶に比べ寿命が永い。花瓶の中で根が出て植木になってしまい、水の補給だけで10年余を経て話題になっている南天の木もある。
- 備前焼植木鉢の盆栽は枯れにくい。
- 半年〜一年半程度の期間、備前焼徳利に密閉し蓄えた酒(ウイスキー等も含む)は熟成が加速され芳醇(香り高くまろやかで、こくがある)になる。
- 備前焼の瓶に保存すれば、醤油も芳醇な香味をもつ。
- 備前焼(玉漿備前)を入れて炊飯するとご飯の味が良くなる(ただし、電気炊飯器の場合炊飯器が壊れてしまう可能性があります。)
- 備前焼大甕は穀物の備蓄期間を長くする。戦国時代、篭城側が水とともに穀物を土中に埋めた備前大甕に蓄え長期の抗戦に耐えた。包囲兵糧攻めの豊臣秀吉は予想を超える長期戦を余儀なくされた。
- 緑茶、紅茶、あるいはコーヒー豆を備前焼茶壷に密封して保存すれば変質しがたい。例えば、玉露や煎茶の緑色が長く保たれ、茶褐色になりにくい。
- 肉、魚、野菜等を加熱調理する時備前焼陶板を介すると味が良くなる。
- 備前焼ビールコップにビールをつぐと微細で長持ちする多量の泡(クリーム状)が生じ、飲み味も向上する。
- ”備前すり鉢、投げても割れぬ”との伝承がある。黒色火薬の原料たる硝石、硫黄および木炭を大量に微粉化するのに使われた。天下平定後、豊臣秀吉は備前焼すり鉢の全面的廃棄を命じたという。
備前焼花瓶による長寿南天の秘密
備前市内のある家庭で朝鮮南天の枝を、備前焼花瓶に生け花として挿して以来、18年間生育し続けている。この間、補給したのは水道水のみとのことである。その背景となる理由を考察する。
動物は体外から、水、有機物(蛋白質、脂肪、炭水化物およびビタミン)および無機塩類を摂取しなければならないが、植物は光合成により有機物を自家生産する。植物は、水、空気、光と無機塩類を必須とする。
- 上記の南天は室内光を受け、炭酸ガスと水を光合成している。
- 無機塩類(ミネラル)は備前焼花瓶の内壁から供給される。備前焼の原料粘土は伊部地区を中心とする備前市内の低地周辺の山の、表層微粉土が流れ集り、堆積して粘土化したものであり*1、植物の生育に必要な各種のミネラルを含んでいる。特に光合成に必要なマンガンを多量に含む。
- 自然釉さえもかかっていない備前焼花瓶の内壁は、ガラス質の釉で保護されていないので、炭酸ガスが水に溶けて形成される炭酸、植物の根から分泌する有機酸等により浸食(植物風化)されやすく、無機イオンが溶出し易い。
- 1300度近くの高温で半月近くも熱する備前焼の焼成は、各種鉱物の微結晶を析出させる*2*3。相接する結晶が異種であるか、あるいは同種結晶であっても結晶学的に異なる面が隣接するとき、それらの面間に接触電位差が生じ、無釉の内壁表面に局所電池が形成される。この局所電池の電極反応は自らを浸食させ、無機イオンの溶出を助ける。
- 備前焼は遠達力のある放射束を発している。現在のところ、この放射束の正体は不明であるが、銅板で遮蔽され、ガラスを透過し、溶質の水の溶解を促進する性質をもつことが実験的に確かめられている*4。おそらく、この放射束は、植物の必要とするミネラルイオンを内壁から溶出させる過程を促進させると考えられる。
- この放射束の作用、局所電池作用および内壁表面ー水間の水素結合相互作用は、水および水溶液の構造を変化させ、生理的に活性な水(biologically active water)を作り出していることが推定される。これは、人間にとっては『おいしく』、動物や植物にとっては生育を促進し寿命を長くする効果をもつ水および水溶液を作り出すと考えられる*5。
- 不透明であり黒褐色の内壁をもつことがもたらす備前焼花瓶内部の光循環は、水の腐敗をもたらす微生物のうち、植物性のカビや藻類等の発芽、繁殖を抑制する。このことが根腐れ防止作用をもつと考えられる。
- *1 備前市香登(かがと)の田の地表面から5mの深さまで0.1m間隔で採取した粘土の堆積年代のけいそくが岡山理科大学の研究室で進行中である。
- *2 備前焼内壁の粗面には微結晶が密集している。この微結晶は、ビールに溶けている炭酸ガス分子が集合して泡を形成する(液相から気相に相転移する)ときの発泡核として働く。
- *3 焼成温度が高すぎたり、松割り木の灰を被ったとき、内壁よりも自然釉によりガラス質コーティングされて滑らかになり光沢をもつことがある。
- *4 室温の物体が発する熱放射は『遠赤外線』であるが、これはガラスを透過しない。
- *5 『備前焼の機能に関する民間伝承集』参照
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